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ネットワーク機器のCLI(コマンドラインインターフェース)は、ルーターやスイッチの管理に欠かせない強力なツールです。しかし近年、攻撃者がCisco IOS、JunOS、NX-OSなどのネットワーク機器CLIを悪用し、組織のネットワークインフラを侵害する事例が増加しています。MITRE ATT&CKフレームワークではこの手法をT1059.008「Network Device CLI」として分類しています。本記事では、ネットワーク機器CLIを悪用した攻撃の仕組み、実際の攻撃グループによる事例、検知方法、そして効果的な防御策まで、セキュリティ担当者が知るべきポイントを網羅的に解説します。
T1059.008 Network Device CLIとは
MITRE ATT&CKにおけるT1059.008は、攻撃者がネットワーク機器に備わるCLI(コマンドラインインターフェース)を悪用して不正な操作を行う攻撃手法です。T1059「Command and Scripting Interpreter」のサブテクニックとして位置づけられています。
ネットワーク機器には、ルーター、スイッチ、ファイアウォールなどが含まれ、それぞれ独自のCLI環境を持っています。代表的なものにCisco IOSのCLI、Juniper JunOS CLI、Arista EOS CLIなどがあります。攻撃者はこれらのCLIにアクセスすることで、ネットワーク設定の変更、トラフィックの傍受、バックドアの設置、さらにはファームウェアの改ざんまで行うことが可能です。
この攻撃手法が特に危険なのは、ネットワーク機器がセキュリティ監視の盲点になりやすい点にあります。多くの組織ではエンドポイントやサーバーの監視に注力する一方、ネットワーク機器のセキュリティ監視は手薄になりがちです。
攻撃者がネットワーク機器CLIを狙う理由
ネットワークの中枢を掌握できる
ルーターやスイッチはネットワークトラフィックの中継点です。これらの機器を制御することで、攻撃者は通過するすべてのトラフィックを傍受・改ざんする能力を得ます。ACL(アクセス制御リスト)の変更によるファイアウォールルールの無効化、ルーティングテーブルの書き換えによるトラフィックのリダイレクト、GREトンネルやVPN設定を利用したデータの外部送信など、ネットワークレベルでの攻撃が可能になります。
セキュリティ製品の監視対象外
EDR(Endpoint Detection and Response)やアンチウイルスソフトはネットワーク機器上では動作しません。従来のセキュリティ対策ではネットワーク機器内部の不正な操作を検知することが困難です。攻撃者はこの監視の隙間を利用して、長期間にわたる持続的なアクセスを維持します。
認証情報の取得が容易
多くの組織では、ネットワーク機器にデフォルトの認証情報や脆弱なパスワードが使用されています。また、SSH鍵の管理が不十分であったり、TACACS+やRADIUSなどの認証サーバーとの連携が適切に構成されていないケースも少なくありません。攻撃者は初期アクセスで取得した認証情報を流用して、ネットワーク機器へのアクセスを獲得します。
ネットワーク機器CLI上でのTCLスクリプト悪用
Cisco IOSには、TCL(Tool Command Language)スクリプトを実行する機能が搭載されています。攻撃者はこの機能を悪用して、ネットワーク機器上で自動化された不正操作を実行します。
具体的な悪用例として以下が挙げられます:
- 設定情報の外部送信:TCLスクリプトでルーターの設定ファイル(running-config)を取得し、TFTPやHTTPで外部サーバーに送信
- バックドアアカウントの作成:管理者権限を持つ隠しアカウントをスクリプトで自動作成
- ネットワークスキャン:TCLのソケット機能を利用して、内部ネットワークのスキャンを実行
- Syslog操作:ログの改ざんや削除により、攻撃の痕跡を消去
TCLスクリプトの悪用は、「tclsh」コマンドでインタラクティブモードに入ることで実行されます。Cisco IOSのバージョンによっては、権限レベル15(特権EXECモード)でなくても一部のTCL機能にアクセスできる場合があるため、権限管理の徹底が重要です。
実際の攻撃グループによる事例
SYNful Knock(2015年)
2015年にFireEye(現Mandiant)が発見した「SYNful Knock」は、Cisco IOSルーターのファームウェアを改ざんするインプラント攻撃です。攻撃者はルーターのCLIアクセスを得た後、正規のIOSイメージを改ざんされたものに置き換えました。この改ざんされたファームウェアは再起動後も残存し、攻撃者に持続的なバックドアアクセスを提供しました。最大14カ国で被害が確認され、ネットワーク機器を標的とした攻撃の深刻さを世界に示しました。
APT33 / Elfin
イラン系の攻撃グループAPT33(別名Elfin)は、中東やエネルギー分野の組織を標的にした攻撃キャンペーンにおいて、ネットワーク機器の脆弱性を積極的に悪用することが知られています。標的組織のネットワーク機器にアクセスし、ネットワーク設定を変更することでデータ傍受や横展開を行います。
Turla
ロシア系のAPTグループTurlaは、ネットワークインフラストラクチャを標的とした高度な攻撃で知られています。ネットワーク機器を踏み台として利用し、標的組織の内部ネットワークへの持続的なアクセスを維持する手法を用いています。特にISP(インターネットサービスプロバイダ)レベルのネットワーク機器を侵害することで、広範囲の通信傍受を可能にしていました。
検知方法
ネットワーク機器CLIの不正使用を検知するためには、複数のアプローチを組み合わせることが重要です。
Syslogによるログ監視
ネットワーク機器のSyslogを外部のSyslogサーバーに転送し、リアルタイムで監視します。特に注目すべきログイベントは以下の通りです:
- 設定変更イベント(%SYS-5-CONFIG_I)
- ログイン試行の失敗(%SEC_LOGIN-5-LOGIN_SUCCESS, %SEC_LOGIN-4-LOGIN_FAILED)
- 特権モードへの昇格(%SYS-5-PRIV_AUTH_PASS)
- ファイル操作イベント(コピー、削除など)
TACACS+によるコマンドアカウンティング
TACACS+サーバーを導入し、コマンドアカウンティングを有効にすることで、ネットワーク機器上で実行されたすべてのコマンドを記録できます。「show running-config」「copy」「tclsh」など、機密性の高いコマンドの実行を監視し、不審なコマンド実行パターンを検知します。
NetFlowによるトラフィック分析
NetFlowデータを分析することで、ネットワーク機器から外部への不審な通信を検知できます。特に、管理用ネットワーク以外からのSSH/Telnet接続や、機器から外部へのTFTP/HTTP通信は要注意です。
SNMPトラップとファームウェア整合性検証
SNMP(Simple Network Management Protocol)トラップを設定し、設定変更やインターフェース状態の変化をリアルタイムで通知します。また、定期的にファームウェアのハッシュ値を検証し、不正な改ざんがないか確認することも重要です。Ciscoの場合は「verify /md5」コマンドでIOSイメージの整合性を確認できます。
緩和策・防御方法
AAA(認証・認可・アカウンティング)の徹底
ネットワーク機器へのアクセスには、TACACS+またはRADIUSを用いた集中管理型の認証基盤を導入します。ローカルアカウントの使用を最小限にし、多要素認証(MFA)の導入も検討してください。ロールベースアクセス制御(RBAC)により、各管理者に必要最小限の権限のみを付与します。
ファームウェア整合性の確保
ネットワーク機器のファームウェアは、メーカー公式サイトから取得したものを使用し、インストール前にハッシュ値を検証します。Cisco Secure Boot、Juniper Secure Bootなどのセキュアブート機能を有効にし、不正なファームウェアの読み込みを防止します。定期的なファームウェアアップデートにより既知の脆弱性を解消することも重要です。
ネットワークセグメンテーション
管理用ネットワーク(Out-of-Band Management)を分離し、ネットワーク機器への管理アクセスは専用の管理セグメントからのみ許可します。VTY回線にACLを適用し、許可されたIPアドレスからのみSSH接続を受け付けるようにします。Telnetの使用は完全に廃止し、SSHのみに統一してください。
構成管理とバージョン管理
RANCID、Oxidized、Ansible Networkなどの構成管理ツールを導入し、ネットワーク機器の設定をバージョン管理します。定期的に設定のバックアップを取得し、承認されていない変更が行われた場合にアラートを発報する仕組みを構築しましょう。構成のドリフト(意図しない変更)を自動検出する体制が理想的です。
おすすめセキュリティ対策ツール
本記事で紹介した対策を実施するうえで役立つ製品をご紹介します。
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ネットワーク機器への攻撃と併せて、エンドポイントの防御も重要です。信頼性の高いセキュリティソフトの導入を強くお勧めします。
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まとめ
MITRE ATT&CK T1059.008「Network Device CLI」は、ネットワーク機器のCLIを悪用した攻撃手法です。本記事のポイントを整理します。
- ネットワーク機器は監視の盲点になりやすい:EDRやアンチウイルスが動作しないため、攻撃者にとって魅力的な標的です
- TCLスクリプトなどの正規機能が悪用される:正規のCLI機能を利用するため、通常のマルウェア検知では発見できません
- APT33やTurlaなどの国家支援型グループが活用:高度な攻撃グループがネットワーク機器を標的としています
- 検知にはSyslog・TACACS+・NetFlowの組み合わせが有効:単一の検知手段では不十分であり、多層的な監視が必要です
- AAA・ファームウェア整合性・セグメンテーションで防御:基本的なセキュリティ対策の徹底が最も効果的な防御策です
ネットワーク機器のセキュリティは、組織のネットワーク全体の安全性を左右します。本記事の内容を参考に、自組織のネットワーク機器のセキュリティ体制を見直してみてください。
参考リンク
- MITRE ATT&CK T1059.008 – Network Device CLI
- IPA 独立行政法人 情報処理推進機構 セキュリティセンター
- JPCERT/CC(一般社団法人JPCERTコーディネーションセンター)
- Cisco IOS Software Integrity Assurance
- 内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)
Based on MITRE ATT&CK® v16, © The MITRE Corporation. Licensed under Apache License 2.0.
※本サイトはMITRE非公式の解説サイトです

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